次世代テクノロジーを活用し、収益力を伴った成長を実現する
エグゼクティブサマリー
2008年の世界金融危機以降、世界中の金融機関にとって将来への投資が今ほど適した時期はありません。金利上昇や明るい経済見通し、利益の伸び、好調な株式市場を受け、銀行は将来を保証するための最新のテクノロジーに投資することができます。ところが現在、銀行は資本コストを上回る自己資本利益率を上げるのが精一杯という状況にあります。この状況を乗り越えるために、銀行は主要な機能を共有化し、コストを削減する新たなテクノロジーの可能性を生かすことで、株主価値の向上に集中することができるのです。
この課題やチャンスへの金融機関の対処方法を理解するため、ブロードリッジはグリニッチ・アソシエイツと協力して、セルサイドとバイサイドの株式アナリスト150人と金融機関69社の役員を対象に、収益向上に向けた業務効率化戦略について聞き取り調査を実施しました。
金融機関は世界金融危機以来、自己資本利益率(ROE)を改善するためにさまざまな施策を実施しています。とりわけコスト削減の取組みが際立っており、今日までに400億ドル以上が削減されました。金利上昇や明るい経済予測、利益拡大により、新たなテクノロジーに投資するゆとりが銀行に生まれ、以前と比べると将来の成長について楽観的な見通しが高まっています。それでもなお、金融機関の業績は資本コストを下回っています。さらに金融機関は顧客と手数料を獲得するための厳しい競争にもさらされており、同時に主要資産のデジタル化や電子化のプレッシャーも高まっています。
一方で、明るい材料もあります。アメリカの大統領選後に始まった金利上昇の流れにより世界各地で銀行が恩恵を受け、貸付け利益、企業の収益ともに増加しています。とはいえ、課題もまだ残っています。ヨーロッパとアジアではイギリスのEU離脱に伴って、状況の不透明感が強まり、多国籍企業の業務モデルに影響を与えるような規制強化の兆しが見え始めています。多くの銀行はROE改善のためにすでに人員を削減しており、業務変革のイニシアチブを担えるような人的リソースは残っていません。
ブロードリッジが実施した調査によると、銀行はビジネスモデルや業績の改善に向けて大幅に前進したものの、さらに踏み込んだアクションが必要なことが明らかになりました。調査後、経営幹部レベルの役員や中間管理職を交えた議論でも、いまだ差し迫った課題が残っていることが確認できました。ただし、変革を進める可能性がどこにあるか認識もしています。それは可能性を秘めた変革の3つの新しいテクノロジー、すなわちクラウドコンピューティング、人工知能(AI)や機械学習やロボティクス、分散台帳技術(DLT)を利用することです。
これらのテクノロジーは、ビジネスが再び高い利益率を達成するための原動力となり、変革のチャンスをもたらします。金融機関にとって、これは次のような意味を持っています。
現状を見ると、クラウドテクノロジーについては、各金融機関のビジネスアプリケーションや機能、また規模や複雑さの度合いに応じてペースに違いはあるものの、すでに導入が進んでいます。AIや機械学習、ロボティクスについては、3年以内には業界で目に見える影響が現れ、導入の早い企業はすでにこの分野への投資も行なっています。AIによりユニット処理取引で20~30%の生産性向上が見込まれるため、コスト面で大きなメリットがあるとする専門家もいます。ブロックチェーンを用いた変革的なソリューションについては、十分な成果が上がるにはより長い時間がかかる可能性があるものの、ブロードリッジをはじめとする多くの企業で概念実証が行なわれており、ごく最近リリース可能な段階に入ったアプリケーションもあります。こうした新たなテクノロジーの可能性を開花させるためには、金融機関による大規模な投資が必要です。しかし銀行が自分たちでそれを行なうには、旧システムの運用コストが重くのしかかった状態で、新しいプラットフォームに相応の資本や人的リソースを投入しなければなりません。
世界金融危機以降、各銀行は最も手の届きやすい部分を狙う形で、社内のコスト構造を見直し、ポジションを大幅に削減あるいは外注化しました。そこで銀行は次の一手として、革新的なテクノロジーの導入、業務の効率化を促進する共有化や市場構造の変化などを検討する必要が出てきています。
ところがそうした要請にもかかわらず、多くの金融機関は単独でこうした投資を行なうだけの資金や知的資本のゆとりがありません。コストカットの必要性と最新テクノロジーのもたらす機会を認識した金融機関の多くは、これらのテクノロジーを共通の業務機能に活用するため、共有投資モデルをすぐに実行できるパートナーを積極的に受け入れようとしています。経営幹部クラスの役員の64%は、自前のソリューションを構築するよりも、業界全体にわたるユーティリティーサービスを利用したいと考えています。こうした幹部が他社と共有するほうがよいと考える業務は、清算決済や規制対応、参照データの管理などです。
一連の証券取引の流れの中でポストトレードプロセシングの中核をなす業務(清算決済、カストディ業務、財務管理、帳簿記録など)は、たしかに共有化をはじめるのに合理的な領域です。業界全体で見ると、取引処理コストは年間170億~240億ドルにも上ります。ブロードリッジが最近実施した調査によると、そのうち20億~40億ドルは共有化によって削減できる可能性があります。実際に、この調査結果を裏付けるように、多くの主要な金融機関で過去2年間、新たな共通の取引処理ユーティリティーサービスを確立する取組みがいくつか見られました。
しかし強力な理論的根拠にもかかわらず、こうした広範にわたる複数の金融機関の試みの中で成功したといえるものはまだありません。業界のリーダーたちとの議論から以下の3つの課題が浮かび上がりました。
一方、こうした状況を改善するための3つの材料があります。第1に、段階的なアプローチが現実的だという展望が得られました。多くの金融機関が同時に多くのことを試みようとすると、合意に至るのが非常に困難になる上に、リスクも大幅に増大します。特に、業界のパートナーは同じ方法で他の顧客の課題も解決できると認識した上で、豊富な資金を活用して、まずは顧客1社の課題を解決することができます。このような一歩一歩のアプローチでコストとリスクを削減すれば、オンボーディングに関する課題も大きく軽減されます。
第2に、次世代のマルチテナント型テクノロジープラットフォームを適切に選ぶことができれば、状況は改善されます。ブロードリッジのグローバルポストトレード管理システム(GPTM) がその良い例です。現在複数の顧客がこのシステムをすでに実際に運用しており、それまでは市場に存 存在しなかった真のグローバル・マルチアセット機能を生み出しています。第3は、クラウドやAI、機械学習、ロボティクスなどの次世代テクノロジー応用の必要性です。共有化のアプローチを進める金融機関は、こうしたテクノロジーを促進するために知的資本や共同投資を活用することができます。
このアプローチをもとに、金融機関はユーティリティの規模と機能がすでに存在する機会を特定し、新たなユーティリティスケールのソリューションを開発するためにパートナーたちと提携しています。また金融機関がテクノロジーベンダーを統合し、イノベーションの目標を実現しながら、規模の拡大とコストの削減を達成するために重要な戦略的パートナーとしてグローバルに協力する機会も提供します。
金融機関が専門技術や規模が不足している領域にイノベーションを導入したい、あるいは自社が最も分化した領域の専門技術に集中したい時に活用するのがパートナーシップです。パートナーシップが業務の改革を促進し、新しいテクノロジーの導入に寄与した4つの例をご紹介します。
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